ロジスティクスレポート No.21
トラックドライバー不足問題の要因と対応について
はじめに
トラック輸送の現場では、「募集してもトラックドライバー(以下、「ドライバー」とする。)が集まらない」という声が日増しに高まっている。実際に、自動車運転の職業の有効求人倍率は「1」を超える状況が続いており(図表1)、輸送需要の増減にかかわらず、「ドライバーは募集しても集まらない」状況が継続している。
しかし、多くの物流現場では、これまで通りの輸送ができているため、特に荷主企業からは「本当に不足しているのか」との声を耳にする。実際は、物流を止めてはならないという運送事業者の責任感のもと、現存のドライバーが休日出勤や残業をこなし、予備のドライバーが常に運転し、事務職、管理職もドライバーを兼務しているケースが少なくない。つまり事業者とドライバーの頑張りによって輸送体制が維持されているためである。しかし、このような頑張りには、自ずと限界があり、このままでは輸送の安全面でのリスクが高まることも懸念される。
図表1 「自動車運転の職業」の有効求人倍率の推移
注1)「自動車運転の職業」には、貨物自動車以外にバスやタクシーも含まれている。
注2)北海道、埼玉県、愛知県、香川県、福岡県には、パートを含む。
資料)各労働局ホームページより筆者作成
物流の現場では、輸送量に比べて輸送力のほうが多い供給過多の時代が長く続いてきたが、年々、主に年齢を理由に辞めていくドライバーの数に対して、新たなドライバーのなり手が少ない状態が続いた結果、供給不足へ逆転したとみられる。つまり、今日のドライバー不足の問題は、社会変化に伴う構造的な問題として捉えるべきであり、これまでのようなトラック輸送ができないリスクに直面している現実を冷静に受け止めることが重要である。
我が国の物流を担うトラック輸送が安定した活動を行うには、ドライバーの確保が課題であることはいうまでもない。本稿では、ドライバー不足問題の現状と今後について紹介する。
1.ドライバー不足の要因
ドライバー不足の背景には、長く続いてきた供給過多の時代の影響により余儀なくされた低賃金で長時間労働、常に交通事故の危険性があるなど厳しい労働環境、また、職業としてのドライバーのイメージが決して高くはないことなど、これまでもさまざまな要因が指摘されている。
(1)長時間労働で低賃金な労働条件
まずドライバーの労働条件をみると、他産業に比べて低賃金で長時間労働という実態にある。
ドライバーの賃金は、「きつい仕事であるが他の職業よりも賃金は高い」という時代があった。しかしそれは過去の話である。全産業平均や建設業と比べて、道路貨物運送業の月収は約5万円の差があり、年間賞与その他特別給与額を加えて年収を試算すると、道路貨物運送業は約400万円と他産業とは100万円以上もの格差となっている。なお、ドライバーの賃金体系は、歩合給割合が高く、年功序列の体系が薄いため、若年層では他産業に比べて給料がよいのが魅力との声も聞く。しかし、それは25歳までであり、20代後半以降年齢が高くなるに従って、他産業との格差は開く一方である。若年層にとっての賃金も決して魅力とはなっていない。
一方、月間実労働時間も、全産業平均や建設業と比べて、道路貨物運送業は約30時間以上も長い。ドライバーは、他産業と比べて長時間労働であるにも関わらず低賃金なのである。実は、ドライバーの労働時間は、労働基準法に加えて、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(以下、改善基準とする。)の遵守が求められている。社会的にはあまり認知されていないルールだが、この改善基準では、始業から就業までの「拘束時間」は最大16時間まで、終業から始業までの間の「休息期間」は8時間以上、休憩を入れずに走行する連続運転は4時間までなどが求められている。しかし、その遵守状況は、厚生労働省が監査・監督を行った事業場のうち6割強で何らかの違反があるなど、長年にわたり大きな改善がみられない。
このように、他産業と比べて労働条件が厳しい職種であるドライバーに、積極的に応募しようとする若年層が少ないことは、納得せざるを得ないのではないだろうか。
中高年層においても、転職先としてドライバーへという選択肢を選ぶ人が少なくなっているともみられる。それは、東日本大震災により職を失った方々が少なくない東北地方でも、ドライバーには応募が少ないという実情からも推察できる。
(2)実際の輸送現場での厳しい実態
ドライバー不足は、近距離の輸送を行うドライバー、長距離ドライバーともに問題となっている。
近距離ドライバーの輸送現場では、荷物の積み卸しが手作業の場合が少なくない。宅配輸送はいうまでもなく、大型トラックでの輸送でも、いまだ手積み、手卸しの現場がある。例えば、加工食品をメーカー側の物流センターから量販店等の配送センターに10トン車で輸送する現場でも、手積み、手卸しがそれぞれ2時間かけて行われているケースがある。ドライバーにとっての労力は厳しいものであることは間違いない。
また、特に都市部での輸送現場では、配送先に駐車できる場所がなく、仕方なくトラックを路上に停めて配送するケースも相当にみられる。しかし、近年、路上駐車の取り締まりが厳しさを増しており、ドライバーが駐停車違反で取り締まられる実態がある。この場合、会社から指示された仕事を違反を前提で行わなくてはならず、その上、ドライバー個人の資格である運転免許にキズがつくことになる。違反を重ね免許停止ともなれば、業務はもとより、通勤やプライベートで運転することができなくなることもありうる。
このように、他産業と比べて厳しい労働条件であることが、ドライバー不足の大きな要因になっていると考えられる。
更に長距離ドライバーの輸送現場では、先に記述した改善基準告示の遵守が難しいことに加えて、終業から始業までの間の「休息期間」にカラダを休め、睡眠をとる場所の多くが、トラックの運転席の後ろの幅70cm前後の狭い寝台である。我々サラリーマンは、出張先ではビジネスホテルの宿泊が普通であり、経費削減のため狭いカプセルホテルやネットカフェに泊まる人は決して多くない。バスのドライバーや鉄道の運転手も、出先では仮眠所や宿泊施設で休息している。しかし、トラックドライバーの多くは、アイドリングによる振動の中、常にネットカフェよりも狭い運転席後方のスペースに宿泊している。
このように厳しい現場の職業であることも、ドライバーへのなり手が少ない要因と考えられる。
(3)若年層で進むクルマ離れ
一方で、職業の選択は、その仕事に対する「興味」や「やりがい」が大きな理由となることは言うまでもない。ドライバーでは、過去から常に「クルマの運転が好きだから」という理由が最上位であった(図表2)。しかし、若年層では、都市部の公共交通機関の発達やクルマの保有費用の高さ、加えて、クルマが趣味や興味、ステイタスシンボルといった存在から、移動手段としての道具という位置づけに変化している。社会全般でいわゆる「クルマ離れ」が進んでおり、クルマへの興味の部分が引き続き選択理由となるのは厳しい状況がうかがえることも、ドライバー不足の要因のひとつとみられる。
図表2 ドライバーが今の会社に就職(転職)した理由(第1位の回答)
資料)(社)全日本トラック協会 『トラック運送事業における労働力実態調査』平成19年3月
(4)安全対策強化に向けたドライバー管理の強化
ドライバーという職業の選択理由には、「ドライバーは束縛されないから」という理由もあった。しかし、現在のトラックの多くには、デジタルタコグラフやドライブレコーダーが装備され、以前とは比べものにならないくらい、ドライバーの行動は管理されるようになっている。それは、安全対策の徹底や、省エネ運転によるコスト削減などが大きな目的であるが、今の時代、ドライバーは「管理される職種」となっているのである。ここにおいても、過去のドライバーの良さがなくなってきており、ドライバー選択への食指が働かなくなっているのでないかと考える。
2.ドライバー確保に向けた取り組み
このようにドライバー不足の問題は、多くの要因によるものであり、一朝一夕に改善できるものではない。しかし、ドライバー職は、職業選択の時点で「きつく危険な仕事」として敬遠されており、真剣に対応、対策を施さなければならない時期を迎えている。 まず何より「なり手」を増やし選択されるためには、賃金アップと労働時間短縮への取り組みは必須と考える。それは、ドライバーへのアンケート調査結果(図表3)からも指摘されている。
図表3 ドライバーからみたトラック業界にドライバーが集まりにくい要因
資料)(社)全日本トラック協会 『トラック運送事業における労働力実態調査』平成19年3月
しかし、多くのトラック運送事業者では、経費の削減や賃金体系の見直しなどの経営努力にも既に工夫の余地は少ない。そこでトラック運送事業者の立場で今こそ重要なのは、適正運賃の収受である。そのためには、荷主企業との運賃交渉が重要であり、原価計算に基づいた理論武装が必要である。すなわち、まず自社内でどれだけの運賃が適正なのかを確認する必要があるからである。
また、長時間労働も、これまで仕事を確保するためにやまれぬ対応だったことは否めない。しかし、安全性の確保への影響も多大であり、長時間労働を前提とした運行を真剣に見直すべき時期にきていると考える。
運賃アップや長時間労働の削減は、トラック運送事業者の経営面だけの問題ではなく、安全性の確保をはじめとするコンプライアンスに必須な取り組みであること、それは荷主企業にとっても重要であることに理解を求める姿勢が重要である。
特に労働時間が長くなる大きな要因が、積み込み時の出荷遅れや荷卸し時の順番待ちなどによる「手待時間」にあるのも実態である。また、積み込みや荷卸しの厳しい時間指定に遅れると厳しいペナルティーが求められるため、必要以上に余裕を持った運行をせざるを得ないというケースもみられる。更に、きついとされる荷役作業の軽減も一層進める必要があろう。そのためには、物流の取引条件の見直しと、マテハン機器等の適切な活用が求められるところである。
このように、長時間労働の短縮に向けた現場作業の改善には、荷主企業の協力が必要であり、事業者から荷主企業への強力な意思表示が重要である。そもそも荷主企業の多くは改善基準というルールの存在を知らない。それは事業者が説明していないことが理由のひとつでもある。今後は、荷主企業に対しても「コンプライアンスのため、ルール遵守のため」という説明を徹底して行い、実際にルールの範囲で運行できるような協力を求めるべきである。
3.おわりに
トラック運送業界からは、このままの労働条件では「ドライバーが確保できない」、「安全・安心な輸送サービスを提供できない」危険性が高いことを、荷主企業や多くの中小事業者の荷主である元請事業者に対して、これまで以上に主張すべき時期にきている。
一方、メーカーや卸売業、小売業などいわゆる荷主企業では、ドライバー不足により、思うように商品や原材料等の貨物を運べない事態が起きつつある現実を注視する必要がある。繰り返しになるが、ドライバー不足の最大の要因は、他産業に比べて長時間労働で低賃金という厳しい労働条件にあり、安定した輸送力を確保するためには、ドライバーの労働条件を他産業並みに整備していかなくてはならない。言い換えれば、これまでのようにトラック輸送やドライバーの労力に依存した物流から、「ドライバーに優しい物流」に見直していくことが、今後のあるべき物流の姿ではないかと考える。それには、例えば長時間労働の一因である荷物の積降しまでの手待ち時間がない現場、きつい労働の一因である手作業による積卸しを排除した現場をいかに実現するかが重要である。また、長距離輸送については、トラックから鉄道や船舶利用へのシフトも必要であるが、一方でリードタイムが長くなることへの理解や、運行ダイヤが決まっている鉄道や船舶に乗り遅れないよう、出発時間の厳守への対応が必須となる。
運賃についても、ドライバーの労働実態に見合った賃金を支払うことができる適正なレベルの負担も必要となろう。現在のトラック輸送の運賃単価は、さすがに限界にあると考える。それは、厳しい運賃単価の下でのトラック事業経営の結果が、ドライバーの労働条件の低下を余儀なくしているとみられるためである。荷主企業においても、引き続き物流コストの削減が不可避であろうが、末端での輸送単価の見直し分を、サプライチェーン全体の中で、無駄な輸送や無駄な保管を排除する効率化によって吸収すべきと考える。
「ドライバーに優しい物流」の実現には、運送事業者の自助努力のみならず、荷主企業や消費者を含めた社会全体の理解と協力が不可欠である。その結果が、我が国の経済活動に必須なトラックドライバーの安定的な提供につながるものと考えるところである。
●参考文献
- 公益社団法人全日本トラック協会:「日本のトラック輸送産業2014」
- 厚生労働省ホームページ
- 社団法人全日本トラック協会:「トラック運送事業における労働力実態調査」、平成19年3月
(担当:経済研究部 大島 弘明)