ロジスティクスレポート No.03
荷主企業における物流分野での量の削減に向けた取組み
~改正省エネ法は物流事業者選別の引き金となるか?~
- 改正省エネ法が2006年4月1日に施行され、年間輸送量の多い特定荷主は貨物輸送の分野においても省エネに対する取組みが求められることとなった。
- 荷主企業においては、物流分野での二酸化炭素排出量の削減のため、「トラックの走行燃費の向上」や「積載効率の向上」などを図ったり、あるいは今後そうした取組みを行う予定の事業所が多い。一方、現状では、「納品条件の見直し」や「環境負荷低減意識の強い物流事業者利用への転換」を行っている事業所はまだ少ないが、今後(1年程度先)そうした取組みを考えている事業所が多い。
- 二酸化炭素排出量の削減に向けた取組みについては、その効果(削減量)を実際に把握している事業所は、4割程度にとどまっている。しかし、環境負荷低減意識の強い物流事業者を今後利用したいという意向を持つ事業所が多いことから、今回の改正省エネ法の施行を契機に、荷主企業から物流事業者に対し、二酸化炭素排出量の把握とその削減に向けた省エネの要求は一段と高まることとなろう。その結果、省エネ等への対応が遅れた物流事業者が市場から淘汰されていく可能性もあろう。物流事業者は、荷主企業と一体となって省エネ対策に取り組んでいくことが求められる。
1.物流分野での二酸化炭素排出量の削減が求められる荷主企業
近年における世界的なエネルギー需給の逼迫化に加え、「地球温暖化対策推進大綱」の決定(2002年3月;地球温暖化対策推進本部)や京都議定書の発効(2005年2月)など、国内外における温室効果ガスの排出量削減に向けた動きなどを受けて、「エネルギーの使用の合理化に関する法律の一部を改正する法律」(以下、「改正省エネ法」と記す)が2005年8月に公布され、本年4月1日に施行された。
同法では、貨物輸送に関して、物流事業者のみならず、年間輸送量の多い特定荷主(注:年間輸送量が3,000万トンキロ以上の荷主)に対しても省エネの取組みを義務付けている。すなわち、特定荷主は、貨物輸送に係るエネルギー使用の合理化に関する目標達成のための計画を作成して、主務大臣に提出するとともに、貨物輸送事業者への委託輸送(自家輸送分を含む)に係るエネルギーの使用状況等について、定期的に主務大臣に報告する義務を負うこととなる。そして、委託輸送に係るエネルギー使用の合理化の状況が著しく不十分な場合は、必要な措置をとるべき旨の勧告が行われ、さらにその勧告に従わなかった時は、その旨が公表されるとともに、勧告に従うように命令される。
したがって、特定荷主は、貨物輸送の分野において、エネルギー消費原単位が改善されるような対策を講ずることが求められる。こうした省エネの推進は、言うまでもなく二酸化炭素排出量の削減につながるものである。
図-1 省エネ法改正に係るスケジュール(運輸分野)※
2.荷主企業における二酸化炭素排出量削減策
2005年12月に日通総研が実施したアンケート調査結果(1)により、荷主企業が物流分野での二酸化炭素排出量の削減に向けて行っている取組みについてみると、3分の2の事業所が「アイドリングストップなどトラックの走行燃費の向上」(66.6%)を挙げており、以下、「計画配送などによるトラックの積載効率の向上」(59.8%)、「輸配送の共同化」(26.9%)の順となっている。
また、今後(1年程度先)新たに行う予定の取組みについてみると、「計画配送などによるトラックの積載効率の向上」(47.1%)、「アイドリングストップなどトラックの走行燃費の向上」(34.2%)などを挙げる事業所が多い。
注目すべき点は、現状では実施している事業所は少ないものの、「多頻度少量納品などの納品条件の見直し」や「環境負荷低減意識の強い物流事業者利用への転換」を、今後新たに行う予定としている事業所が多いことである。たとえば、納品条件の見直しについては、現在実施しているのが155事業所であるのに対し、今後実施予定は218事業所となっており、これまで問題を指摘されてきた「行き過ぎた多頻度少量物流」に関して見直す動きが顕在化しそうである。また、環境負荷低減意識の強い物流事業者利用への転換については、現在実施しているのが78事業所に過ぎないのに対し、今後実施予定は147事業所となっており、物流事業者への期待の高さが読み取れる。
(1) 2005年12月下旬に荷主企業2,500社を対象にアンケート調査を実施し、1,144社から回答を得た(回答率45.8%)。
図-2 物流分野での二酸化炭素排出量の削減に向けて行っている取組み【全業種】
[回答事業所数1,031事業所]
図-3 物流分野での二酸化炭素排出量の削減に向けて検討している取組み【全業種】
[回答事業所数881事業所]
3.低い二酸化炭素排出量に係る削減量の把握率
アンケート調査結果によると、物流分野での二酸化炭素排出量の削減に向けた取組みについて、その効果(削減量)を把握している事業所は約4割にとどまっている。このうち、個別の取組みごとに把握している事業所は18.2%に過ぎない。
改正省エネ法の施行後にこのアンケート調査を実施したならば、今回の調査結果よりも把握率はいくぶん高まったかもしれないが、いずれにせよ、現状では、物流分野での二酸化炭素排出量の削減量について把握している事業所は少ないと言える。
図-4 物流分野での二酸化炭素排出量の削減量の把握状態【全業種】
[回答事業所数1,055事業所]
4.環境負荷低減に対応できない事業者は淘汰も
荷主企業に対し、「貨物輸送事業者に行わせる貨物の輸送に係るエネルギーの使用の合理化に関する荷主の判断の基準」(経済産業省、国土交通省)および「貨物輸送事業者に行わせる貨物の輸送に係るエネルギーの使用量の算定の方法」(経済産業省)が告知されたのが3月29日と遅く、まだ日数が経過していないため、荷主企業側が改正省エネ法の詳細な内容等についてまだ完全に認知していないこと、さらには同法における規制の対象となる特定荷主が輸送量の多い大手企業に限定されることもあって、荷主企業の物流担当者レベルにおいては、現状では、二酸化炭素排出量の削減に関する意識は必ずしも高いとはいえないようである。
しかし、環境負荷低減意識の強い物流事業者を今後利用したいという意向を持つ事業所が多いことから、今回の改正省エネ法の施行を契機に、荷主企業から物流事業者に対し、二酸化炭素排出量の把握とその削減に向けた省エネの要求は一段と高まることとなろう。
また、荷主側ではエネルギー消費量の算定が困難なため、当該業務を物流事業者に依頼する企業もあろう。こうした依頼に対応するためには、算定のための手法を習知していなければならないほか、当該事業所の輸送内容についても把握する必要があり、それらのコストが物流事業者側の負担となることも考えられる。
改正省エネ法では、物流事業者に関しても、比較的規模の大きい事業者を対象に省エネの取組みを義務付けている。トラック運送事業者に関してはトラック200台以上を保有している事業者が義務対象者とされているが、2004年3月末現在では、200台以上のトラックを保有している事業者は266社と全体の0.5%に過ぎず、したがって、大半のトラック運送事業者は対象外となる。しかし、自社が対象外とはいえ省エの取組みを怠ると、省エネに対する意識の高い荷主企業から切り捨てられることも考えられる。
物流事業者は、輸送など実作業の面のみならず、物流合理化計画の作成段階から、荷主企業と一体となって省エネ対策に取り組んでいくことが求められよう。
(担当:経済研究部)
※ 財団法人省エネルギーセンター資料等により作成